『流人道中記 上下 完読』
著 者 浅田次郎
発行者 松田陽三
発行所 中央公論新社
第1版発行 2020年3月10日
どれほど目を凝らそうと、世の中にはひとりだけ見えぬ顔がある。
自分自身の顔ですね。
鏡に映したところで右と左が逆様だから、決して正体ではない。
どれほど耳を欹てようと、世の中には聴こえぬ声がある。
自分自身の声ですね。
それは耳が捉えるのではなく骨に響いて伝わる音だから、実は他人が聴く声とはまるでちがう。
それらと同じ理由で、どれほど心静かに考えようと、自分の気性などわかるはずがない。
だから僕は呑気ものではなくて、もしかしたら苦労性なのかもしれない。
乙次郎が妻に宛てた手紙の抜粋。
自分のことは、自分でもよくわからないのに
他人にわかるはずがない。
気分なんてものは コロコロ変わるものですからね
密通が露見したのに腹も切らない大身旗本の青山玄蕃の「押送(おうそう)」。
押送人は、若冠19歳の見習与力の石川乙次郎。
青山玄蕃は冤罪だった。
が、申し開きもせず罪を被った。
ここも、読みごたえがあった。
風景描写がわかりやすく、丁寧だった。
登場人物の人柄も想像の範囲内であり、読みやすかった。